つっぴ君と この夏のおでかけ

つっぴ君は、子供の頃、夏休みには田舎へ帰っていました。お母さんの里の宮城か、お父さんの里の山形でした。


ある夏の帰省の際、つっぴ君の乗った車は交通事故に巻き込まれてしまいました。つっぴ君はおでこかどこかを切ってしまい、救急車に乗せられて病院へ担ぎ込まれたそうでした。その他には大きな怪我もなく、無事夏休みを過ごして家に帰ったそうですが、この時以来「車は新車!」とお父さんは心に決めたようでした。その時は中古車に乗っていたのだそうでした。


大人になったつっぴ君は、私を連れて、毎年お母さんのお墓参りに行きました。車だったり、周遊切符ととれんた君だったり、ツアーに乗ってだったりしました。


初めて山形へ新幹線で向かった時のことです。列車が福島を過ぎると、つっぴ君は窓の外を眺めて「東北、鬱陶しいのぅ」と言いました。景色からして他と違う、暗くて重くて鬱陶しい、鈍臭いと言うのです。
「そんなことないでしょー」と言いながら、私も窓の外に広がる風景に、違和感を覚えていました。山梨へ向かうときの中央線から眺める山々とも、箱根へ向かうときの東名高速から見える山々とも何かが違うのです。それは山の色でした。
東北は木々の緑の色が深く、山は黒々と見えたのです。きっとなんとか樹林帯とかかんとか相とか、説明のつくことなのでしょう。つっぴ君は色合いや自然や風土の違いを「鬱陶しいのぅ」と表現していたのだろうと思います。


「夏になれば、たんぼが青々となって、きっと爽やかで明るくてきれいだよー」と言っても、つっぴ君は「そうはならん」と首を振りました。「秋になれば、たんぼが黄金色になって、きっと光り輝くようにきれいだよー」と言っても、つっぴ君は「君は、わかっとらん」と鼻を鳴らしました。
その後、露をふくんだような瑞々しい緑のたんぼのひろがる風景も、夕焼けのように黄金色に揺れるたんぼの風景も新幹線の窓から見ました。でも、そのたんぼを抜けて谷間へ入ると、そこはいつも深くて黒い山々が待っていました。




その山形へ納骨と初盆に行ってきました。お寺では分骨をしていただきました。つっぴ君は、以前の手術で小さな装置をつけていました。それがずっとくっついたままなのが気になっていたのですが、それも一緒にわけてもらえて、少しほっとしました。


盛夏の山形日帰りの旅を終え、装いも新たに軽い足取りで帰宅したつっぴ君は、早速、秘密基地からの眺めを楽しみました。やはり主がいないと館もしまりません。これから、お手入れも楽しくなると思います。