つっぴ君と ちょっとしたミラクル

つっぴ君は、人を驚かせるのが好きでした。こっそり準備をして、そっと仕掛けをして、誰かが喜んだり驚いたりするのを見るのが好きなのです。お礼を言われても「うんうん」と生返事みたいに聞き流すのですが、後で「すごいねぇ。さすがだねぇ。」と褒めると「当然!」とタバコの煙をぷかぁとはいていました。



去年の秋の終わり、つっぴ君が最後の入院をしていたときのことです。病院のすぐ近くにとても大きな虹が現れたことがありました。くすんだ色をしてひしめき合うように並んだ家々の屋根に足を下ろして、大きく背伸びをするように空に向かっていたそれは、絵の具もまだ乾かないような、とても鮮やかな色をしていました。


今年の冬、四十五日の法要に山形へ行った時は新幹線の窓から虹が見えました。寒々しい乾いた色合いの田んぼと山の向こうに、淡い色の、でも二重の虹が出ていたのです。両方の足を地面について、きれいなアーチを描いていました。遠くから新幹線の通り過ぎるのを見送っているように見えました。


先日、一周忌の法要を終えてタクシーで駅へ向かっていた時、タクシーの窓からも虹が見えました。柔らかい色をしたその虹は、まっすぐな道に並ぶように橋を架けていました。手前の足の近くを通り過ぎ、ずっともう片方の足を追いかけるようにタクシーは走っていました。もう追いつくかなという頃後ろを振り返ると、さっき横を通り過ぎた足が遠くにまだはっきりと見えました。



つっぴ君の仕業に違いない。と、そう思うのです。


すごいねぇ、さすがだねぇ、君ってば、することがかっこいいねぇ。