つっぴ君と 食べ放題

つっぴ君は、食べ放題が好きだったかというと、そうではありませんでした。
コストパフォーマンスを重視するつっぴ君にとって、2000円前後で食べ放題するくらいなら、リンガーハットでダブルちゃんぽんセット餃子5個を食べる方が、うんと嬉しかったのです。


また、「いろいろなものを少しずつ」という食行動は、つっぴ君にはなじまないものでした。
つっぴ君には同じ「カレーライス食べ放題」なら「一人一鍋カツ乗せ放題」の方が、「いろんなカレー食べ放題」より、うんといいのです。
パスタにしても、山のようなボロネーゼにミートボールが乗せ放題の方がいいし、焼きそばなら「一人一鉄板」で鉄板の上のものをみんな平らげる方がいいのです。


食べ放題に行くと「焼きそば〜パスタ〜カレーライス〜焼きそば〜パスタ〜カレーライス」の永久運動で、「唐揚げあるよ」とか「クリームコロッケあるよ」とご注進申し上げないと、好きなものでさえ目に入らないのでした。

あるお店では、最初に渡されたお皿が9つの区画に分かれていて「どうぞいろいろお楽しみください」となっていたのですが、料理を取りに行ったつっぴ君は、その9つのくぼみを埋めるようにライスを敷いてカレーを注いで戻ってきました。

また、あるお店ではパスタをいっぱい乗せて席に戻ってくるや不満そうに「おにいさんが取ってきたもの、取ってきたもの、その後出来立てがでてくる」と言っていました。それは、つっぴ君がトレーを次々空にしていたからに他なりません。パスタで、焼きそばで同じ目に遭い、ご立腹だったので「減ってきてたら出来立て出てくるの待ったらいいんじゃない?」と言いましたが、それはできない相談なのでした。
「食べ放題は時間との戦いだ!」
何かを待つ時間なんて、つっぴ君にはなかったのです。


でも、つっぴ君の一番の不満は私が「おしゃべりしながら食べること」でした。私の家族が食べ放題に夢中だった頃、つっぴ君もよく一緒に連れて行かれました。そして私たちが「おいしいねぇ」とか「それ、どこにあったの?」とか「一口ちょうだい」とか、また食べ放題とも関係のない「昨日テレビでねぇ」とか「今朝、猫がねぇ」などと話しているのを見たつっぴ君は、帰宅すると嘆息して言いました。
「君たちは何しに来てたの!?食べ放題で放題しないでどうするの!!」


お皿とお箸に命を預け、和食洋食中華にデザートの戦場に赴くつっぴ君には、私はプラトーンを組むには未熟過ぎたようです。


でも「ファミレスで朝食ビュッフェってあるの知ってる!?」と私を食べ放題に連れて行ったのは、つっぴ君だったのにな。



デザートも同様で、デザート皿の容量に不満を抱いたつっぴ君は、ジョッキに杏仁豆腐をなみなみ注いで持ってきておりました。