つっぴ君と お手製冷たいパスタ

つっぴ君は、スパゲティが大好きでした。定番はミートソース、たまにカルボナーラでした。外食する時はミートソースに揚げたナスやミートボールが乗っているものがお気に入りでした。


休日の朝、遅くに目を覚ましたつっぴ君がまず大きなお鍋にお湯を沸かしはじめると「あぁ、今日はお出かけはなしか、午後遅くだなぁ」とわかりました。300gのパスタと、大盛り2〜3人分のミートソースのレトルトを茹でる姿は、嵐の番組などを観ながらお昼はゆっくりするという証なのです。


ほぼ一年中、ミートソーススパゲティを食べていたつっぴ君ですが、結婚してしばらくはいろいろなスパゲティを食べていました。その頃は二人暮らしで、夕食がパスタの時も多かったのです。明太パスタや、和風キノコパスタなど、外で食べたり雑誌で見たものを、夕食に作って食べたりしていました。その中で、つっぴ君がいたくお気に召したのが「冷製パスタ」でした。ちょうどノンオイルドレッシングが台頭していた時代で、スーパーのドレッシングコーナーには新しいドレッシングが次々登場していました。野菜とツナ缶やシーフードに新しいドレッシングをかければ、いくらでもバリエーションができたのです。パスタも冷たくして食べるようの細いものを探して買いました。パスタの棚は一番低いところにあったので、二人でしゃがみ込んで「こっちのが細い」「こっちのが細いで」と品定めをしたものです。


ある日、いつものようにスパゲティを作っていた私は、母からもらった明太子で暖かい明太子パスタではなく、冷製パスタを作りました。マヨネーズをヨーグルトで伸ばして明太子を加えたソースです。これが、つっぴ君のお口にとてもあったようでした。
それがとてもとても気に入ったつっぴ君は、この味を皆様にお届けしたい!と思ったようでした。私の実家へ遊びに行く時に「おにいさん、お昼作ってふるまうで」と言ったのです。レタス、ミニトマトブロッコリー、アスパラガス、ホタテ、カニかま、そして明太子。材料も買いそろえ、実家で腕を振るうつっぴ君。しかし、味見をして「違う・・・」つっぴ君の目指すレベルのものはできなかったようでした。
敗因は材料の調達でした。いつものスーパーではなく、実家の近くの行き慣れないスーパーで買い物をしたのです。思い通りの材料が揃えられなかったようでした。また明太子も母のお土産のおいしい明太子はすでに食べ終わっており、急遽買った明太子の味が思っていたものと違っていたようでした。
とはいえ、パスタ自体はとてもおいしくできていました。「おいしいねぇ」「つっぴ君、お料理上手だねぇ」と私たち家族が褒めそやしながらごちそうになる中、つっぴ君は「もっと、おいしいのにぃ・・・」と悔しさを噛み締めていました。


冷製パスタブームは、この年で収束をみました。「つっぴ君お手製冷製パスタ」も、その後実家で振る舞われることはありませんでした。でも、つっぴ君は時々「おにいさん、作る」と言ってはハンバーグとか何かを私の家族にごちそうしてくれました。
何かを作る、作って披露するということが、好きだったんだなぁと思います。




つっぴ君はスパゲティ、ミートソースのストックを切らすことはありませんでした。スーパーで私が新しいパスタソースを「大盛りってかいてあるよ」と、つっぴ君の元へ持っていくと、つっぴ君は品物を裏返していいました。「大盛り何人分なんて曖昧な表記に騙されてはあかん」つっぴ君は「重量」に目を光らせていたのです。重さ、価格、味、この厳しいチェックポイントを通過したものだけが、つっぴ君のおなかに収まることができたのでした。