つっぴ君と お風呂

つっぴ君は、お風呂が好きではありませんでした。家では、しばしば、どちらが先にお風呂に入るかで喧嘩になりました。


二人とも、何かをしろと言われるのが好きではありませんでした。言われるほどに、したくなくなるのです。でも観たいテレビの時間は迫ってきます。お互いに「こいつが先に入ってくれたら、その後大急ぎで入ってテレビを観よう」と思っていました。なので「お風呂入れ」「そっちこそ入れ」「そっちが先に入れ」と喧嘩になるのでした。


つっぴ君は、温泉もそれほど好きではありませんでした。つっぴ君には温泉運があまりなかったようなのです。


長野に遊びに行って温泉に入った時は、大量の子供が温泉に溢れていたそうでした。女湯の露天風呂には雪見酒が用意されていました。私がほかほかになってあがってみると、子供に追われるようにうんと早くに上がって、すっかり冷めたつっぴ君がロビーにぐったり座っていました。
群馬に妹二人も一緒に遊びに行った時は、大正ロマンの香り漂う温泉が人気のお宿に泊まりました。体育館を男湯、女湯に分けたような広いお風呂で、妹たちと私は、たった3人できゃーきゃー言いながら入りました。人がやっと一人座れるように壁がくりぬかれただけのサウナにも、きゃーきゃー言いながら入りました。そうして出てみると、つっぴ君はうんと早くにあがって、私たちを待っていました。どうしたのかと聞くと「がらーんとした、死体洗い場みたいなところに、一人なんだもん。怖くてすぐ出てきた」そうでした。確かに、そういわれていればそういう雰囲気も満点の温泉でした。
山形にお墓参りに行った時は、屋上に露天風呂がある旅館に泊まりました。シーズンオフの旅館には、私たちの他には団体客が一組くらいいただけでした。私もそう長湯をする方ではないのですが、部屋に戻ってみると、とっくに戻っていましたという顔でつっぴ君が転がっていました。ゆっくり入ればいいのにと言う私に「ゆっくりなんかできるか」とつっぴ君は答えました。「じいさんばっか、次々入ってくるんやで」団体客は「第なんとか連隊同期会」のおじいさん集団だったのでした。


そんなつっぴ君も、箱根小涌園ユネッサンは大好きでした。一度まだ寒い時期に行ったことがありました。いくつもある露天風呂では、小走りで震えながら露天風呂のハシゴをしました。死海風呂という高濃度の塩水風呂では、つっぴ君をぷかぷか浮かべようと思ったのですが、うまくいきませんでした。どうも切り傷があったらしいつっぴ君が「痛いよー痛いよー」と、飛び出してしまったからです。内風呂からは早咲きの桜も見えて、とても楽しかったです。つっぴ君はその後もCMなどを観ては「また、行きたいの〜」と言っていました。


つっぴ君は映画「フラガール」を気に入っていました。一度、スパリゾートハワイアンズに一緒に行きたいなぁと思っていました。好きな映画のロケ地に行くというベタな行為を、つっぴ君は意外と好きだったのです。きっと「お!君、トヨエツがおるで!」とか嘘をついたに違いありません。



映画「フラガール」予告編。しずちゃんver.
つっぴ君は、しずちゃんに意外と辛口評価をくだしていました。
http://www.youtube.com/watch?v=NzsD4DOwSdg