つっぴ君と シェフの腕前

つっぴ君は、外で食べたものを再現することが好きでした。と言っても、たいてい「失敗や」と悔しそうにしていましたので、再現することではなく、再現に挑戦することが好きだったのかもしれません。


まず、スパゲッティ類は先日お話しした冷製パスタの再現に凝っていた時期がありました。あれも外で食べたメニューなのです。野菜と白身魚のフライが軽くマリネにしてあって、パスタに絡めてありました。白身魚のフライだけはお惣菜を用意して、早速つっぴ君は調理にはいりました。しかしお惣菜のフライは衣が多くて、少々味に問題がありました。最近のお惣菜専門店のフライならおいしかったでしょう。しかし当時はスーパーでしかお惣菜は買えなかったのです。そこでフライの代わりにホタテやツナ、サーモンなどを使ってみることにしました。それがなかなかおいしかったのです。マリネのドレッシングもいろいろ変えてみたり、野菜もちょっとずつ変えてみたり、つっぴ君はあれこれと工夫をしていました。その最終型が明太子マヨネーズでした。


ある時はハンバーグのホイル包み焼きを作ろうとしていました。確か、スキーかドライブかで出かけた先で食べたものを再現しようとしていたのだったと思います。この時もつっぴ君は「失敗や」とうなだれることになったのですが、敗因はつっぴ君の「わらじみたいに大きいんやで」の一言に尽きました。わらじみたいに大きくしたら火が通らなかったのです。フライパンで焦げ目をつけたら、オーブンで蒸し焼きにするという「チューボーですよ」で見た通りの巨匠テクニックで挑んだのですが、最終的にはまだ中身の赤いハンバーグをレンジでチンすることになりました。


ある日、つっぴ君はスーパーで珍しいものを見つけ出し、カゴに入れました。棒ダラです。偶然見つけたのではなく、前々からないかないかと探していたような様子でした。棒ダラが手に入ると、つっぴ君は「今日の夕食は自分が作る」と宣言し、他の食材も探し始めました。この時つっぴ君が作ったものは「棒ダラのシチュー」会津のレストランで食べたメニューでした。
この時もつっぴ君はできばえに満足がいかなかったようで、「違うのぅ・・・。棒ダラが違うのかのぅ。それとも何か・・・」と首をひねっていました。


「おにいさんの作ったカレーは日本一」とか「おにいさんの茹でたソバが一番おいしい」と、いつもは豪語するつっぴ君ですが、実際は自分の料理の腕前には自分が一番辛口でした。「食べてみ」と出された料理は、私にはどれもとてもおいしかったのです。
会津のシチューは一緒に食べたものだったので、本物と違うと言われればそうでした。でも、私は一緒に行った旅行で食べたものを、作ってみたいくらい「おいしかった」と思っていてくれたことが、とても嬉しかったのです。
つっぴ君が作った「棒ダラのシチュー」は本物以上に星三つでした。