つっぴ君と プロレスリテラシー

つっぴ君は、プロレスが好きでした。テレビ放送は欠かさず観ていました。でも、プロレス雑誌やスポーツ新聞はあまり読んではいなかったようなのです。


つっぴ家はつっぴ君はもちろんお父さんもプロレス好きでした。お父さんは野球も相撲も好きなので、スポーツ新聞は毎日買って読んでいます。つっぴ君はそれを「ふん。品がないのぅ」と言って、せっかくお父さんが「なんとかが載ってるぞ!」と新聞をテーブルにおいてくれても、知らん顔をしていました。
私もプロレスを観るようになると、我が家にはプロレス雑誌が集まるようになりました。「週プロ」とか「週ゴン」とか「レディゴン」などです。いもうとたちまでが持ち寄るようになると「ファイト」とか「格通」とかまで部屋に広げられるようになりました。つっぴ君は床に転がったり、座椅子に寝そべったりしてページをパラパラ繰っていましたが、自分で買ってくることはなかったように思います。


試合観戦に行くときなどに、私が駅の売店でプロレス雑誌を買い、電車の中で広げたりすると「きゃー。やめてー。恥ずかしい」と言って止めました。たまに車内のサラリーマンなどが読んでいるプロレス雑誌の表紙を読んだ私が「ねぇねぇ、なんとかって書いてある」と耳打ちしたりすると「やあねぇ。恥ずかしい」などと言いました。
プロレスが大好きなはずなのに、どうして新聞雑誌を敬遠するのか、私にはさっぱりわかりませんでした。


ある年のお正月のことです。一人で近所のコンビニに行った私は入り口横のラックにスポーツ新聞を見つけました。大きな見出しに大きな写真、まだ女子プロにしか興味を持っていなかった私は手に取って見ることもありませんでした。そして帰宅して、つっぴ君に言いました。
「あのねぇ、スポーツ新聞に橋本が載ってたよ」
ただ、それだけです。なのに、つっぴ君はこの世の終わりといった表情で「なんでそんなこと言うんやーーーーー!!」と叫びました。橋本が載ってたって言っただけだよ、試合の結果なんか言ってないよ、見出しになんて書いてあったかだって言ってないじゃん、と私は言いましたが、つっぴ君はすっかり絶望していました。「テレビ放送待ってたのに!一切の情報を入れないで待ってたのに!」と怒っていました。実際、結果も知らない私の「橋本の写真」という言葉には何の含みもなかったはずです。そう主張すると、つっぴ君は言いました。


「プロレスファンだったら、その一言でわかってしまうんやー!」


             そんなあほな
と、思いましたが、「ごめんなさい。もう言いません」と謝りました。


そして新日お正月ドーム興行のテレビ放送の日を迎えました。
つっぴ君はいつも通り、特に浮かれる様子も見せず「どれ観てやろうかのぅ」みたいな風情で座椅子に埋まって、特番を観ていました。本当は「わーいわーい」と思っていたのでしょう。「待ってましたー」とも思っていたはずです。そんなそぶりは微塵も見せないつっぴ君に「なら、あの時も怒らなかったらよかったのに・・・」と、吹き出しそうになるのをこらえるのが大変でした。


その後、プロレス雑誌は発売日によって、ある団体はテレビ放送前に試合結果がわかってしまうのだということを知りました。つっぴ君が頑に新聞、雑誌を遠ざけたのは「品がないのぅ。恥ずかしい」からではなく、ひとえに「テレビで観たかったのにぃっ!」という悲劇を回避するためだったのだとわかりました。
それ以降は、つっぴ君に試合結果をぽろっと知らせるような残酷なことはしないよう心がけていましたが、今年のお正月はつい「ハッスル」の本当に一番いいオチを人にしゃべってしまいました。本当だったら、つっぴ君と一緒に観て「おおおお!これは!!!」と言うはずだった、すごくいいところです。
この場を借りて重ねて謝罪をさせていただきます。たいへん申し訳ございませんでした。




ランチパックは、その豊富なラインナップが大人気だそうです。
つっぴ君が好きなものはないかなーと探したところ、ありました。

カレー焼きそばです。