つっぴ君と 大学受験 

つっぴ君は、美大を受験しました。ずっと美術部の先生に受験の指導を受けていたのですが、先生の体調不良のため、高校三年の夏休みからアトリエに通うことになりました。アトリエではデッサンや平面構成を勉強していたそうです。


中学時代の珠算教室以来の塾通いでした。夏期講習ではまる一日教室にこもってデッサンだったそうです。部活動の間に受けていた先生からの指導と、アトリエでの勉強にどういう違いがあったかわかりません。でも、一部屋に大人数が集まって黙々とデッサンをし、それを講評されるというのは、最初は戸惑ったのではないかと思います。
「平面構成が苦手」としばしば言い、「最も恐れていたやり直し」宣告を受けてがっかりしていました。課題に追われて土曜日も日曜日もなかったそうです。「昨日デッサンをしている夢を見た・・・」と言っていたかと思えば、アトリエで居眠りしながら鉛筆だけは動かしていた自分に驚いたりと、受験生らしい忙しい毎日を送っていました。


それでも、文化祭では出店を作るのにアトリエを休んだり、冬休みには冬期講習を終えて気分転換に遊びに行ったりもしていました。麻雀したり、喫茶店でいつまでもおしゃべりをしたり、初詣にも行きました。
高校受験のときも特別に受験対策をしなかったらしいつっぴ君は、大学受験でも「学校行事とか何かはちゃんと楽しくするの」と言っていました。年明けの自由登校期間もすっかり自由に登校するつもりで「基本的に登校しないものだ」と言われて、「生活リズムが狂うー。家にいてもすることないー」と不平を漏らしていました。


受験日も近づき大学を下見に行った時は、予想以上に時間がかかって、冷や汗をかいたそうでした。共通一次も記念に受けてみたり、他の大学の試験では「7時間も軟禁!」と怒ったり、筆記に実技で1校受けるのに2日はかかる受験には、さすがのつっぴ君もぐったりしていました。


推薦合格の人をのぞけば、つっぴ君はクラスで2番目に合格を決めていました。それで少し気が楽だったのでしょう。1校だけ一緒に合格発表を見に行きました。とても遠い遠いところで、きっと落ちているのに行くのが気が重いというので、行く行くとついて行ったのです。予想通りの不合格でしたが、遠い道のりも残念な結果も気になりませんでした。自分の受験で乗った中央線はあんなに苦痛だったのに、この時の中央線や更に乗り換えた聞いたことのない小さな路線は、今でも懐かしい気持ちがします。


「そういえば、アトリエでは」と、先日お友達が、夏期講習に集まった仲間内で、同人誌を作る計画があったという話をしてくれました。受験生で時間がないのはもちろん、デッサンに変な癖がついたり描き方が崩れるというので、その時期に同人誌などを作るのは厳しく禁じられていたそうです。それでも計画は実行されたようでした。つっぴ君は「俺はやらない」と、にべもなく断ったらしいのですが、イラスト1枚か2枚は出したかもしれないということでした。


「出しただけですか?」と聞くと「そうそう」「編集作業は手伝わなかったんですか?」と聞くと「いなかったなー。つっぴー」「編集が一番大変なのに?」と聞くと「そうそう」という返事に「やっぱり悪つっぴ君が存在したのでは?」という疑念を深めた、エピソードでした。