つっぴ君と 水道橋界隈

つっぴ君は、プロレスが好きでした。10年くらい前は、よく観戦に行っていました。


ドームやアリーナの大きな興行も観に行きました。猪木の引退試合や、女子プロの合同イベントとか新日の何かなどです。横浜文体や川崎体育館にも行きました。全女の金網デスマッチも、倒産からの新生全女宣言も、ZAPの初登場も観ました。全日の興行では1000円で馬場さんと写真が撮れるコーナーがありました。いもうと夫婦と4人一緒に申し込もうとしたところ、一人一枚1000円と言われ、「あのブドウはすっぱいに違いない」のような心境で諦めたりもしました。大田区体育館にも行きました。みちのくが分裂騒動を起こしているときで、里帰り参戦のTAKAみちのくがサスケに憎まれ口を叩きながらエールを送る姿も観ました。
「週プロ」の興行日程欄を見ながら、今月はこの大きな興行へ行こうとか、あおり記事につられて、この因縁マッチを観に行こうとか、ベルトの行方を観に行こうなど、観戦スケジュールを立てるのも楽しみのひとつでした。


半ば定期的に通っていたのが、後楽園ホールでした。新日やみちのくはチケットを確保しておかなければ入れませんでした。みちのくプロレスの年末恒例最終東京興行は超満員で、立ち見と言うより壁に押し付けられているようでした。貧血で目の前が暗くなり、ライブで酸欠失神っていうのはこういうことかと思いました。


でも、つっぴ君の好きな後楽園ホールはそんなチケット売り切れ満員御礼な興行ではありませんでした。女子プロレスの興行が好きだったのです。当時女子プロレスは人気再燃と言われていていました。とは言え、小さな団体がいくつも存在する状態で、大きな会場では他団体選手を招いた対抗戦風や因縁マッチ風の試合が多く組まれていました。でも、後楽園ホールへ行けば、一つの団体で若手がスター選手に挑んでいる試合や、中堅どころの見応えのある試合を観ることができたのです。
次代のスター選手の育成が女子プロレス界の急務と考えていたつっぴ君は、後楽園ホールでこそ、それが可能であると信じていました。


女子プロレスの団体の試合は当日で十分チケットが買えました。早めに来てチケットを買い、食事をしたり散歩をしてホールへ戻れば試合が始まりました。つっぴ君は若手が紙テープを片付けたりセコンドについたりしながら勉強をしている様子を温かく見つめていました。


用事でお茶の水へ行きました。水道橋からお茶の水への道を車窓から眺めていると、ぷらぷら時間つぶしに歩いたことを思い出しました。