つっぴ君と 不二家のペコちゃん
つっぴ君は、高校時代、通学のバッグにペコちゃんの缶バッジをつけていました。
私たちの高校は、とても自由な校風でした。文化祭の時には軍服姿やヤクルトのおばさんの制服姿の生徒もいました。普段でもアロハシャツにモヒカンの生徒もいました。その中で美大を目指す男子が通学バッグにペコちゃんをつけているのは、キャッチーの一言で済むくらいだったと思います。
つっぴ君のこの缶バッジは、女子にも人気がありました。ある日の授業中、消しゴムか何かをこつんと当てられて振り返ると、友達の一人がペコちゃんを制服につけて(見て見てー)とアピールしていました。あ、同じの持ってる、と思ってつっぴ君のバッグを見ると、ペコちゃんの姿がありません。こんなふうにいつのまにかバッグから外されて、あちこちに出張していることもありました。
文化祭では、つっぴ君は喫茶店の青いエプロンにペコちゃんをつけて働いていました。いつにない晴れがましい舞台に登場したペコちゃんは、いつも以上の笑顔を振りまいていました。
このペコちゃんの缶バッジは、私があげたものでした。たぶん何かのお礼だったと思います。この頃、私はペコちゃんが大好きで、つっぴ君がペコちゃんを持っていたらかわいいだろうなぁと思ったのでした。でも、バッグやエプロンにつけてくれるとは思っていませんでした。
ペコちゃんにはスペアが二人いました。つっぴ君がなくしてもいいように用意してあったのですが、つっぴ君はペコちゃんをなくしたり壊したりはしませんでした。今はつっぴ君と一緒に通学した傷だらけのペコちゃんと、きれいなままの補欠の二人、ペコちゃんの缶の中で暮らしています。