つっぴ君と 文化祭3

つっぴ君は、ある日、近所の高校の文化祭へ行くと言い出したことがありました。


数年前のことでした。商店街に貼ってあった近くの高校の文化祭のポスターを見つけたつっぴ君は「文化祭、行くで」と言いました。私は小学生の頃よく遊びに行った高校の文化祭でした。でも、つっぴ君には特別な思い入れのある場所とは思えません。高校生にも、これといって関心もなく、何故つっぴ君が文化祭へ行くと言うのか、私にはわかりませんでした。つっぴ君は時々思ってもいないことを口に出しては、私が混乱するのを見ておもしろがることがありました。私は当日まで本当につっぴ君が文化祭へ行くつもりなのか、わからないでいました。


日曜日の午後、少し遅くなってから、つっぴ君はソファから腰を上げ「行くでー」と文化祭へ向かいました。最終日の夕方近くで、催しもあちこちでお片づけに入っている様子でした。つっぴ君はお客さんの姿もまばらな、静かな学校内を特に目的もない様子で歩いていました。教室をのぞいてみたり、渡り廊下からグラウンドを見下ろしたり、土手を眺めたりしていました。
どこか行きたいところがあるのかな、何か見たい物があるのかなと、つっぴ君の様子を見ながら一緒に歩きましたが、わかりませんでした。つっぴ君は昇降口に貼ってある手書きのポスターやチラシを見ては「へたっぴぃやのぅ」と笑って外へ出ると、校舎の周りをぷらぷら歩きました。


いつもと違って足取りもゆっくりでした。展示物を手に取ってみたり、壁に貼られた何かの研究発表を読むともなしに読んでみたり、講堂ではバンドの演奏を少し苦笑まじりの笑顔で楽しんでいました。とにかくなにもかもがゆっくりゆっくりしていました。私は、つっぴ君はいったいどうしてここに来ようと思ったのかがわからないまま、一緒に文化祭を回り、家に帰りました。ずーっとこの時のつっぴ君の気持ちがわからなくて、気になり続けていました。


今もとても気になって、本当は私はどうしたらよかったのかなぁと思っています。何かつっぴ君の気分にぴったりの話題があったのではないかなぁと思えてなりません。でも、きっとつっぴ君は楽しかったのだろうと思います。何かを懐かしむように学校を巡っていたつっぴ君には、私の知らない思い出もいっぱいあったでしょう。それは一緒にはできなかったけれど、また高校の廊下を一緒に歩けたことはよかったと思っています。