つっぴ君と 職業病

つっぴ君は、印刷物のデザイナーでした。
だからでしょうか。印刷物をついつい集めてしまうようでした。


映画へ行くと予告のチラシを何枚も家に持って帰っていました。最初は、その映画がみたいのかな?と思っていたのですが、どうもつっぴ君の趣味ではないものが混ざっていたり、封切りを迎えても全く見に行く気配がなかったりするのです。そのうちデザインの好き嫌いだけで集めていることがわかりました。


電車に乗ると、東急のサルスという冊子を、たいてい手に取っていました。中には沿線のおいしいレストランやケーキ屋さんやイベント情報が載せてあります。つっぴ君が「む?」という顔で冊子を覗き込むので「おいしいもの?」と、つられて覗き込むと、「版ずれかと思ったらゴミだった」とか、そんなことばっかりでした。一通り見終わると「はい」と渡してくれるのですが、「おいしいパスタだって」と話しかけても、それには興味はないのでした。


新聞の折り込み広告などは、それほど熱心にみていることはなかったのですが、「これ、何?」と持っていくと懇切丁寧に説明をしてくれました。「これはねぇ、2店舗共催のチラシをうつ時に、もう1店舗の地図とかが入るスペースなの」とか「これは修正してあるの」などです。一度、つっぴ君が担当していたお店のチラシが入っていて「これが例の生き物?」と持っていくと「そうそうそう!これをねぇ、絶対載せなきゃいけないんだよ〜。これ、これ」と表も裏も何度も見直していました。


つっぴ君の印刷物の楽しみ方は、こうです。
紙を指で挟んでこすって「この紙、高い。金かけてる」と値踏みする。色数を数えて「多い。金かけてる」と値踏みする。特殊な色を見つけて「これ、色作ってるんやで。金かけてる」と値踏みする。ページをぱたぱためくって印刷範囲が揃っているとか、ずれているとかを確認する。あとは写真の出来に「色、修正したらいいのに」などと苦言を呈する。
私が真似して「この写真も直した方がいい」と指差すと「この線いらない。下切るといいのぅ」とか「これは仕方ない」など、またひとしきり講釈をたれてくれました。


会社の方が、つっぴ君の私物のファイルをみつけてくれました。展覧会や映画やイベントで集めた印刷物がまとめてありました。ずっと前に一緒に行った展覧会のものまで残っていて、とても嬉しかったです。
結婚式の二次会で利用したお店のパンフもありました。二次会の思い出に嬉しくてとってあるのか、そんな時でも職業病が抜けなかったのか気になりますが、たぶん後者だと思います。



パンフを集めていたファイルです。