つっぴ君と メディアリテラシー

つっぴ君は、お仕事で学んだことを家でも発揮するタイプでした。印刷物にうるさかったのです。


旅行雑誌を手に「ここに行きたい」などと話しかけると、雑誌を受け取り、無言でぱらぱら見た挙げ句、ぽいっと返して言いました。
「浴室は広角レンズで撮影してある。そんなに広々しとらんで。客室は特別室の写真を使ってある。そのプランで泊まれる部屋と違うで。夕食の写真、そんなに盛ってるはずないで。それに舟盛りは別注文や。それから客室からの風景な、今、桜は咲いとらん」以上。
しおしお雑誌を片付ける私を、ソファでタバコを口に戻し見送るつっぴ君が、では旅行に連れて行かないのかというと、そうではありませんでした。旅行には行くのです。ただ私が広告類にまんまと踊らされていると、一言言わずには気が済まないのでした。


飲食店のメニューもそうでした。私がちょっと目新しい物を「おいしそうだよ」と言うと、じーっと見て
「カキフライは数は同じだろうけど、実物はこんなに大きくないし、丸々してないで。これはキャベツの山に立てかけてあるから、ボリュームがあるように見えるんやで。実際はひらたーいで」以上。
私が「つっぴ君、これ、おいしそうだよ」と知らせる時は、つっぴ君が好きそうなものを見つけた時でした。よかれと思ってメニューを指差すと、こてんぱんに言われるので、しおしおどころではなくうちひしがれたものです。


確かに私は「王様のプリン」という名前に胸を躍らせてオーダーをし、出て来たプリンの小ささに、自分も20cmくらい凹んだりしました。そういう時、つっぴ君は、私の一喜一憂を全部見ていて、もちろん「王様のプリン」は頼んではいないのです。
「どこでもピカチュー」が開店前に整理券の段階で売り切れていた時も「君、限定って書いてある物が自分には買えると思うのは間違いやで」と朝のマックで諭されました。
つっぴ君の目には、私にはメディアリテラシーが欠けていると映っていたようでした。


沖縄旅行が決まった時、私が「ここへ行きたい、これ食べたい」と、つっぴ君に差し出したのは、「こげぱん ぶらり沖縄旅日記」でした。これに印刷、広告の技の隙間を見抜く力はいりません。こげぱんはいると信じる心だけあれば読める本でした。「ぎぼまんじゅう、おいしそう。ぶくぶく茶飲みたい」と色鉛筆で描かれたイラストを指差す私に、つっぴ君は何を指摘することもありませんでした。ただ、本屋さんへ立ち寄った時「これも買いなさい」と、るるぶを渡してくれました。

こげぱん―沖縄ぶらり旅日記


<速報>
今日も、ムーンライダーズのライブに行ってきました。妹が一緒に来てくれて、とても楽しかったです。
そのかっこよさたるや、もはや壮絶と言うよりほかありません。年をとるということは進化することなのですね。
今日の cool dynamo right on では、泣きました。