つっぴ君と 二人のいもうと

つっぴ君には、結婚して二人のいもうとができました。


いもうとたちは、つっぴ君を「つっぴさん、つっぴさん」と慕ってくれ、似顔絵を描いてくれたり、お誕生日だクリスマスだとプレゼントをくれました。つっぴ君も二人を可愛がっていて、どこへ行きたいと言われれば連れて行き、何か作ってほしいと言われれば作り、「つっぴさん、ありがとうございます」と言われては、ご機嫌でした。


ところが、最近になって妹の一人が「最初はつっぴぃ怖かった・・・」と言い出したのです。まさかそんなはずはないだろうと、もう一人の妹に聞くと「私も最初はつっぴぃ怖かったよー」と言うのです。
二人によると、つっぴ君は全く無言で何に参加するでもないのに、私が実家に遊びにくる時には必ずついてきて、台所でぷかぁとタバコを吸って、居間でテレビを観て、夜も更けた頃になると、やおら「さ、帰るで」と帰って行くという正体不明のヒトだったのでした。妹たちは、この来客に実は困惑していたのです。


いつ頃、二人がつっぴ君に恐怖をこえて親しみを覚えてくれたのか、定かではありません。でも「何がしたいなぁ」と言えば無言で実現してくれ、「どこへ行きたいなぁ」と言えば、やはり無言で連れて行ってくれるつっぴ君に「このヒトはしゃべらないだけで、とっても優しいヒトなんだ」と気づいてくれたのです。妹は「だんだん、家で黙って座って、私たちのおしゃべりを聞いてるだけの時も、なんだか楽しそうだなぁって感じるようになったよ」と言ってくれました。


おそらく、妹たちの二人のご主人は、すぐにつっぴ君がどういうヒトか理解してくれていたのではないかと思います。上の妹のご主人は4人でとか、下の妹も一緒に5人での外出を、しばしば提案してくれました。
後楽園ホール女子プロレスを観に行ったことがありました。つっぴ君は会場で合流する予定で、私たちは先にホールに入って観戦して待っていました。つっぴ君はまだかなぁ、まだかなぁと言いながら、最初の数試合が終わっても、つっぴ君は現れませんでした。入り口の方へ首を伸ばしても、つっぴ君の姿はありません。「どうしたのかなぁ」と言い合っていると妹が「あ!」と前方を指差しました。すると斜め向こうの座席に、笑いをこらえるつっぴ君がいたのです。
やっと合流したつっぴ君に「遅かったねぇ。大変だったの?」と話しかけても、つっぴ君は笑うばかり。いったいどうしたのかと思ったら「君たち、必死やのぅw」つっぴ君は第一試合くらいには到着していたのに、わざと私たちと合流せず、私たちが夢中で試合を観る姿を観戦していたのです。
心配して待っていたのにひどいなぁと思いましたが、つっぴ君は、もうおかしくてたまらないといった様子で、いつまでも声を殺して笑っていました。二人の妹たちも、そのつっぴ君のあまりのつっぴ君らしさに、笑っていました。


「あの時のつっぴ君」として、この時のことは何度も話題にのぼりました。そうやって話題にされても、つっぴ君はただ泰然とタバコを吸っているだけでしたが、帰宅して「あのとき、本当に君、おもしろかったねぇ」と話しかけると「当然」と答えるのでした。