つっぴ君と お仕事のぶつぶつ

つっぴ君は、時々思い出したようにお仕事の話をしました。


ある日、いつもつっぴ君が買った本や雑誌を重ねている場所に「るきさん」を見つけました。「どうしたの?」と聞くと「高野文子っていっても知らなかったから」と、高野文子の画風を見てもらうのに買ったのだと言いました。それで上手くお仕事が運んだのかと言うと「却下された」のだそうでした。
何に使いたくて、どのあたりをアピールしたのかわかりませんが、残念ながら「るきさん」は、以来ずっと我が家の本棚にあります。


ある日は「ミスドの絵描いてた人、なんていったっけ?」と聞かれました。「オサム?」と我が家のミスドウォールポケットを指差して答えると、「違うー。もっと前の人」と言いました。「パステル画でー」というので「ペーター佐藤?」と答えると、「そうそうそう!」と急に声が明るくなりました。座椅子でテレビを眺めるつっぴ君の後ろで、ペーター佐藤を検索し「東京に美術館があるって」と伝えると、のそっと起きてきてモニターを覗き込みました。しばらくページを繰っていましたが、どうも今ひとつだったようです。つっぴ君はがっかりした様子で、座椅子にごろんと戻ってゆきました。結局、どんな用があったのかもわかりません。


また、ある日は帰ってくるなり「君、真鍋博知っとる?」と聞かれました。「うん」と答えると「会社の若いのは、知らないっていうんやー」と、まだ驚きさめやらぬ様子で言いました。「星新一とか、もう読まないんじゃない?」と言うと「それはそうかもしれないけど・・・」と、納得のいかない顔をしていました。「和田誠も知らないのかのぅ」と言うので「平野レミの旦那さんだもん。知ってるよ」と言うと「レミのぅ・・・」と言いながら、まだ疑念が晴れないようでした。


またまた、ある日は食後のソファーで「最近の若いのは、絵を描くと鳥山明になるんやー」と言い出しました。もちろん、プロの技術のある方たちです。ただ落書きをすると完全に鳥山明になると言うのでした。中学時代、アラレちゃんには自信のあった私は「しかたないんじゃないのー?」と答えました。すると「でも、アラレちゃん、知らないんやで・・・」と言うのです。びっくりしていると「ドラゴンボールの頃に物心がついとるんや!!」とため息をついていました。ドラゴンボールにもアラレちゃんにも思い入れはないはずのつっぴ君ですが、ジェネレーションギャップを思い知らされるには格好の材料だったようです。


つっぴ君は、何をしていてもお仕事アンテナに微弱な電波を受信しているようでした。そうして、突然だったり、ふとだったり、吹き出したかと思うとだったり、というタイミングで「会社でのぅ・・・」と話をしてくれました。
社会人生活も10年をすぎた頃からは「会社の若いのがのぅ・・・」ということも増えました。そういう常套句は、本来つっぴ君の好まざるものでしたが、気づかないうちに口をついて出てきたようです。
10数年もいたんだもの、と勤続15年記念の写真をみると思います。



これが「るきさん」です。痩せたサザエさんではありません。
るきさん