つっぴ君と どうぶつたち

つっぴ君は、どうぶつが好きだったようです。


新婚旅行で熊本の「阿蘇熊牧場」に行ったことがありました。
牧場といっても、小さなスタジアムのような建物で、フィールドを取り囲むように巡らせた通路から、熊たちを見下ろすように出来ていました。そこにいたのは、テレビで見る野性の熊のような荒々しさもなく、動物園よりはるかに過密な生活環境に、少しくたびれた感じの、そして少し世慣れた感じの熊たちでした。
つっぴ君と私が餌を投げはじめると、すぐさま熊たちは二本足で立ち上がり、両手を大きく振り出しました。我も我もとアピールする熊たちの中で、つっぴ君は一番冴えない感じの熊を狙って餌をあげていました。その熊はやる気の微塵も感じられない顔をしながら、でも誰よりもしっかり二本足で立ち、両手を振るばかりか、拍手をし手招きもしていました。「こいつ、切ないのぅ」と言いながら、つっぴ君は餌のお代わりまでして、その熊に餌を投げていました。


わんわんパークで犬に囲まれたときも、つっぴ君は自分を取り囲みしっぽを振り、膝にのっけて!のっけてと騒ぐ犬の中から、もっとも情けない顔の犬を選んで抱っこしていました。その犬は、つっぴ君にしっぽを振っている間こそ目を開けていますが、つっぴ君に抱えられるや目を閉じてしまうのです。そのまま高く持ち上げられても、目は閉じたまま、手も足も脱力の限りを尽くして、しっぽももう風にたなびく柳のごとき有り様でした。他の犬もお膝に乗せていましたが、乗せる犬乗せる犬、何故か目を閉じていました。結局わんわんパークではアクティブな犬の写真は1匹分しか撮れませんでした。


おさるでも同様です。できるだけ、だらしなく寝転がっているおさる、卑屈なまでに豆粒を拾っているおさる、何を考えているのか遠くをぼんやり眺めているおさる等がお気に入りでした。もちろん生まれたてみたいな赤ちゃんさるがいれば見るには見るのですが、気づけば海風に背中を洗われているようなおさるを見つめていました。


ある日、テレビで「赤ちゃんライオンを抱っこ」というCMを見た私は、「行きたい!すぐ行きたい!今行きたい!」とつっぴ君に訴えました。こういう場合、私の頭が冷えるくらいまでダメ出しをするつっぴ君ですが「待ってたら、赤ちゃんライオン大きくなっちゃう!!」という私の悲痛な訴えに、即座にサファリパーク行きが決まりました。
赤ちゃんライオンとの撮影ルームには長い順番待ちの列ができていました。やっと中に入って撮影用のベンチに腰を下ろすと、赤ちゃんライオンを乗せるように膝にタオルがかけられました。つっぴ君は「おにいさんは、いい」と私にタオルをよこすと、ただ赤ちゃんライオンを抱っこする私の隣で写真の収まろうとしました。が、私の分の撮影が終わると、係員さんはテキパキかつ明るく「遠慮なさらずに、どうぞ」と、つっぴ君の膝にタオルを広げ、つっぴ君の手に赤ちゃんライオンを託したのです。
一人につき2ショット、二人で4枚の写真ができあがりました。つっぴ君はからっぽの膝で2枚、赤ちゃんライオンを乗せた膝で2枚、笑顔でベンチに座っていました。


翌年も同じCMが流れていました。赤ちゃんライオンは毎年生まれているのです。「今だけ!」に乗せられた私に、つっぴ君は「君、今年は行かんのw?」と笑って言いました。もう1回行こうと言ったら、イヤだと言われましたが、もし行っていれば、つっぴ君はやっぱり笑顔で抱っこしただろうと思います。



情けないおさるの写真です。
妹夫婦に「無駄に劇的」と賞賛された一枚です。