つっぴ君と 残業友達

つっぴ君は、20代の頃はずいぶん残業をしていました。徹夜も多かったです。


つっぴ君の帰りを待っていると、23時頃に電話がかかってきました。この時間の電話は「徹夜になります。もう寝てください」でした。デスクからかけているので小さい声で敬語でした。
徹夜コールをしながら始発やタクシーで帰ってくることもありました。少しでも横になって眠ったり、シャワーを浴びたり、着替えたりしたかったのです。また「お泊まりセット」の歯磨き粉が切れたとか、靴下が切れたというやむを得ない事情もあったようでした。つっぴ君の足は大きいので、コンビニではちょうどいいサイズの靴下が買えなかったのです。時々、洗濯物の中から見慣れない小さい(普通サイズの)靴下が出てくることがありました。それは仕方なくコンビニで買った靴下でした。
洗顔歯磨きと徹夜明けの身だしなみには気を配っていたつっぴ君は、ある日帰ってくるなり、こう言いました。「君が徹夜すると足が臭いっていうから、給湯室で足を洗っていたら、見つかって笑われたで」申し訳ない気もしましたが、給湯室で流しに足をかけて洗うつっぴ君の姿を想像すると、つい笑ってしまいました。


23時コールがないときは、終電で帰ってきました。帰宅時間は1時前後でした。歩き方に癖があり、重たい靴で大きな足音をたてるので、つっぴ君の帰宅はすぐにわかりました。玄関に現れたつっぴ君は、「北海道生クリームビッグシュークリーム」と私にもエクレアなどのお土産をぶら下げていました。シュークリームで少し元気を回復すると、つっぴ君はテレビを点けました。ほとんど見ることもなく眠ってしまうのですが、始発やタクシーで帰ってきたときも同じでした。


終電で帰ってくるはずなのに、2時を回ることが時々ありました。コンビニシュークリーム選びに1時間も費やすつっぴ君ではありません。何をしていたかというと、渋谷から元住吉止りの終電に乗り、元住吉から歩いて帰ってきていたのです。疲れているのだし、危ないしと元住吉から歩くのはやめるように言うと、つっぴ君は「おにいさん、痩せるんだもん」と答えました。まだ20代、キャベツやレタスで痩せたかった年頃でした。残業して、さらに「ついでに歩こう」と思うだけのエネルギーが若いつっぴ君にはあったのでした。


ただ、この元住吉ウォーキングダイエットには大きな落とし穴がありました。ある日、綱島駅前を歩いていたつっぴ君が指をさして言いました。「あのラーメン屋、おいしいで」安くて大盛りでおいしいのだそうでした。綱島でラーメンなんていつ食べるのだろうと不思議に思って聞くと、つっぴ君はこう答えました。「元住吉から歩いて帰ると、この辺りでおなかがすくの。だからここでちょっと夜食を食べて、あとはタクシーに乗るんや」
意味ないじゃん・・・と思いました。でも、それも残業の楽しみの一つだったのかなぁとと思います。


鶴見に越して、また引っ越して、つっぴ君も徹夜や残業は減って、このラーメン屋さんのことは、すっかり忘れていました。一昨年頃に綱島で「あれ?」と思い、お店の名前で検索をしたところ、そのお店には「大盛り!安い!」という賞賛の声が多数寄せられていました。やっぱり、と思うともに、一度食べに行かないとなぁと思っています。



たぶん、ここです。
http://gourmet.yahoo.co.jp/0001336401/