つっぴ君と 二人のおとうと

つっぴ君は、もともと弟のいるおにいちゃんでした。私と結婚して二人のいもうとが出来、いもうとたちが結婚するにつれ二人のおとうともできました。


つっぴ君は、二人のいもうとには本当は甘いおにいちゃんでした。無口なために最初は怖がられていましたが、つっぴ君としては最初っから全力で可愛がってあげているつもりだったと思います。
まだ結婚もする前のことでした。鶴見にドイツビールを出すレストランがありました。そこに、グラタンピザというメニューがあったのです。EP盤くらいの小振りなピザ生地の上に、シーフードグラタンが乗っていて、こんがりぐつぐつ焼けて出てくるのです。つっぴ君も私も、それがとても気に入っていました。二人のいもうとにもぜひ食べさせようと、二人を車に乗せてお店に行きました。もちろん、つっぴ君は「おいしい?」とか「たくさん食べて」とか言うわけではありません。私たちが「おいしいねぇ」と言い、もりもり食べる姿を見ているだけだったと思います。その頃は、まだ声を殺して笑うことすらしなかったでしょう。
食事が終わると、下のいもうとが「大黒ふ頭に行きたい」と言い出しました。つっぴ君は私たちを乗せ、つばさ橋から大黒ふ頭へ向かいました。まだ横浜ベイブリッジもない頃でした。大黒ふ頭には後ろのドアを開け放して、宇宙船みたいに青白いライトを光らせて、恐ろしい音量で何かを流している車が大量に停まっていました。そんな時に限って、お手洗いに行きたくなった私たちは、つっぴ君に付かず離れずいてもらいながら、大慌てでお手洗いへ行っては飛ぶようにして戻りました。


そんないもうとたちが結婚するというと、つっぴ君はすっかりおにいさん風を吹かせて「絶対に許さん!」と私に言いました。「お父さんもお母さんも、よかったよかったって言ってるよ」と答えると「誰がいいと言おうと、おにいさんは許さん!」と鼻息を荒くして言うのです。どうしてダメなのかと聞くと「おにいさんより立派な男じゃないとダメ。おにいさんより立派な男はいないんだから、誰でも絶対ダメ」と、頑固親父か悪質クレーマーのような台詞を吐いていました。
私には威勢良く「許さん!」というつっぴ君ですが、いざ未来のおとうとを紹介されると、丁寧に、でも言葉少なに挨拶をしていました。下のいもうとに結婚式で配る紹介用のパンフレットの作成を頼まれると、あの鼻息は嘘だったかのように、いそいそと作っていました。


一人、また一人と増えた二人の新しいおとうとは、つっぴ君と同じプロレスファンで、一緒にプロレス観戦もしてくれました。また麻雀好きで、一緒に卓も囲んでくれました。女性陣が集まっておしゃべりに興じるのを横目に、一緒にぷかりとタバコをふかしてくれましたし、かわいい甥っ子をつっぴ君と遊ばせてくれました。
圧倒的に女性の多い私の実家で、だんだんおとうとが増えていくことは、つっぴ君にとって実は心強い援軍だったのではと思います。