つっぴ君と、出勤の憂鬱

つっぴ君は、残業、徹夜はずいぶん頑張りましたが、朝の出勤の時はしょんぼりしていることがよくありました。毎晩遅くまで深夜番組を観ていたつっぴ君は、朝起きるのが大変だったのです。


目覚まし時計のアラームは1時間に4回も鳴るようにセットしてありました。ステレオもオンタイマーがセットしてありました。つっぴ君は1回目のアラームでお布団から出ると、テレビを点け、再びお布団に潜り込みました。
本当の起床時間の1時間も前から、音が出そうなもの全てを鳴らしていました。鳴っていないのは電子レンジくらいです。私がアラームや音楽、テレビを消したり音を下げると「起きれないやん!」と怒りました。それでも二度寝をしていました。
最後のアラームが鳴り、ようやくお布団から出ると、そこからは20分足らずでシャワーを浴び、歯を磨き、着替えを済ませて、玄関に向かっていました。「いってらっしゃいー」と私が見送りに立つと、つっぴ君は深々とため息をつきました。そして、しばしばこう言いました。
「君、代わりに会社行って」当然、断ると「大丈夫。PCの前に座ってるだけでいいから」「お昼、好きなもの食べていいから」「電話も出なくていいから」「お絵描きソフトで遊んでていいから」ひとしきり「だから代わりに会社に行って」と言うと、堪念して玄関を出て行きました。


私も働いている時は、最寄り駅までとか横浜駅まで、一緒に行きました。横浜駅では改札を出たところで、最寄り駅では改札を入ったところで手を振って分かれました。ホームのベンチに座るつっぴ君に手を振ると、つっぴ君はしかめっ面のまま、ただ「うんうん」とうなずいて答えてくれました。つっぴ君が先に電車に乗るときは、ホームを出る電車の窓の向こうにつっぴ君を見つけて手を振りました。つっぴ君はやはりしかめっ面をほんの少しさらにしかめて「うんうん」と答えてくれました。


「代わりに会社に行って」というのは、本当に一日家でごろごろしたくて言っていたのでもあるでしょう。でも、「〜してていいから」とか「〜してるだけでいいから」と言う内容がなんだか、やたらのんきでだらだらしているところを考えると、ひとしきり私をサカナにあれこれくだらない想像をすることで、少しは気が紛れていたのではないかと思います。


そういえば、つっぴ君は「代わり」でなくても、私をよく会社近くに連れて行ってくれました。休日などに会社においてこないといけないものがあるとかで、車で行ったこともありました。つっぴ君は、会社から少し離れた場所に路駐すると、「警察がきたら、はいはい今どかしますって言ってな」「少し動かすだけでいいからのぅ」と私を運転席に座らせ、「ハンドルに触らなければ曲がらないからのぅ。アクセルだけ少し踏めばいいからのぅ」とキーを握らせ行ってしまいました。私が、つっぴ君が戻ってくるまでコチコチになって座っていたのは言うまでもありません。