つっぴ君と オオカミ少年

つっぴ君は、たわいもない嘘をつくのが大好きでした。


ある日、二人で車に乗っていると横を通り過ぎる車の後ろのドアに「マルマルワンワン」と書いてあるのが見えました。何かワッペンのようなデザインがしてあるものでした。「マルマルワンワンだって。変なのー」と私が言うと、まっすぐ前を向いたまま「オーガニック野菜のエスニックレストランやで」と、つっぴ君が答えました。なんでもよく知ってるなぁと、すっかり感心した私は「どこにあるのかなぁ。行ってみたいなぁ」と、オーガニック野菜のエスニックレストランに想像を巡らせました。私たちの車は交差点に差し掛かり、右折レーンで停まっていた「マルマルワンワン」車に最接近しました。住所を見ようと目を凝らした私が見たものは「ペットホテル・トリミング・ナチュラルドッグフード」の文字でした。
「レストランじゃないじゃん!」と振り返ると、つっぴ君はぷーっと勢いよく吹き出し、ハンドルを握りしめて大笑いをしました。


ある日、近所を歩いていると駐車場にミニが停まっていました。ちょうど次の車は何にしようかと、つっぴ君がうきうきしていた頃でした。「ミニが停まってるよ」と知らせると、つっぴ君は一瞥もくれずに「あれ、ミニじゃないで」と答えました。「やっぱりルーフは黒がいいかねぇ」と言う次の台詞を言わんばかりだった私は、「あれ、ミニじゃないの?」と驚いて聞き返しました。つっぴ君は「あれは、中国でライセンス契約して製造してるやつ。だから純正のミニじゃないで」と足も止めずに言いました。へぇぇぇぇぇ。と感心する私に、つっぴ君はさらに言いました。「だから正式名称は違うんや」へぇぇぇぇぇ。私はエンブレムを見に戻りたいのですが、つっぴ君はすたすた先へ歩いていきます。斜めになりながら後をついてゆく私に、振り返りもせず、つっぴ君はさらに言いました。「ニーミ。新しく美しいと書く」「うそだー!」脊髄反射の速さで私が叫ぶと、つっぴ君はぷーっと吹き出し、私はやっとつっぴ君の嘘に気がつきました。


こんな損も得もないような嘘をつっぴ君はしばしばつきました。やがて私はつっぴ君の言うことを念のため疑ってみるようになりました。
それは自業自得だと思うのですが、つっぴ君は私が言うことも、しばしば疑いました。つっぴ君の帰りを待ちわびて、帰宅するや早速「今日聞いた大ニュース」を報告する私に、つっぴ君は「誰から聞いたの?」とソースを確認しました。「母」「いもうと(上)」「いもうと(下)」と答えると、つっぴ君は「ガセやな」と断じました。自分がいつも私を騙すために、つっぴ君は私がいろいろなところで騙されていると思っていたようです。「つっぴ君がガセだって言うんだよ」といもうとに知らせると「えー。嘘じゃないよー。ほんとだよー」といもうとたちも言い張りましたが、つっぴ君の結論は「いもうとたちも騙されている」でした。


一番多かったいもうとの反論は「本当だよ!週プロに書いてあったもん!」でした。