つっぴ君と お祭り

つっぴ君は、今の家の近所のお祭りを「こんなのお祭りじゃない」と言っていました。つっぴ君の実家近くのお祭りが本当のお祭りだと言っていました。


つっぴ君の実家の近所では「蛇も蚊も」という名前のお祭りがありました。萱で大きな蛇のようなものを作って、それを抱えかけ声をかけながら練り歩くのだそうでした。小学校の頃までは、よくかり出されたと話していました。そういえば、つっぴ君の写真の中には幼稚園ぐらいから小学生くらいまでのハッピを着たつっぴ君の姿が残っています。


中学生の頃は、お祭りの夜店に出かけるのが好きだったそうです。きっとお友達と一緒だったのでしょう。買い食いをしたり、ゲームをしたりしたのかなぁと思いますが、つっぴ君の話してくれた思い出話は少し違いました。「中学の頃、夏祭りに行くと、一人や二人は同級生が屋台の手伝いをしてたんや。で、卒業してから行くと、彼らは正式に働いていた」のだそうでした。


結婚後、私の実家の近所の神社のお祭りに遊びに行ったことがありました。私にとっては子供の頃から毎年楽しみにしているお祭りです。でも、つっぴ君は「これだけ?」とびっくりしたように言いました。これだけもなにも屋台もあるし綿菓子も売ってるし・・・と思っていると、「これは、お祭りじゃないで」とさらに言いました。


その言葉の意味がわかったのは、鶴見に引っ越した夏のことでした。神社まで500mは離れている家の近所の商店街には、通りの最初から最後まで途切れることなく屋台が並んでいました。屋台と、お祭りに出かける人と、御神輿で渋滞する商店街を抜けると、神社の参道へ抜ける細い道にも、やっとたどり着いた参道にも屋台と人がひしめき合っていました。神社に着き、茅の輪をくぐると、神社の境内は屋台でできた迷路のようでした。
屋台の品揃えも全く違いました。私の行っていたお祭りでは、お好み焼き、たこ焼き、焼きそばと、かき氷、りんご飴、チョコバナナ、それに綿菓子くらいのものでした。しかし、ここのお祭りでは、肉類が充実していたのです。焼き鳥、牛串、豚串という居酒屋メニューに加えて、郷土色豊かな料理もたくさん並んでいました。
くじ引きや射的の景品も「え?これが手に入るのですか!?」というホットなラインナップでした。つい手を出しかけましたが、つっぴ君に「絶対当たらないから」と諌められて断念しました。
一番驚いたのは、都市伝説の類いだと思っていた「カラーひよこ」が実在したことです。つっぴ君はそれを見つけると「懐かしいのぅ」と目を細めていました。お祭りの後には、たいていクラスに一人は「カラーひよこ」を買っちゃった子がいたものだったのだそうです。「すぐ黄色くなって、最終的にはニワトリになるんだよねぇ」というつっぴ君は「絶対買ってくるな!」とご両親に言われていたそうで、一度も買ったことがなかったそうでした。
「本当にいるんだねぇ」と目を丸くする私に、つっぴ君は説教まじりに「君んとこのお祭りなんて、女子供の遊びみたいなもんや。醍醐味がない」と説きました。


そんなつっぴ君も、私の「これは・・・」と指差したものには思わず立ちすくみました。地面に置かれた段ボール箱の中で、羽毛をふわふわさせてひしめき合う小さな生き物、段ボール箱の側面には「ヤンバルクイナー」と書いてありました。「ヤンバルクイナって保護されてないの?」と聞く私に、つっぴ君は一言「わからん・・・」と答えました。



ヤンバルクイナ、屋台で売っていたのは、ひなでした。
http://www.youtube.com/watch?v=j-QJGEWfYBA