つっぴ君と Mac

つっぴ君は、お仕事でMacを使っていました。


入社直後は職場ではMacはまだ使われていませんでした。その頃のものでしょう。まだ若いつっぴ君が、台紙にロゴやダミーの文章や写真を貼って見本を作っている職場での写真があります。また、会社の方からいただいたつっぴ君の制作見本の中にも、そうやって作ったらしい見本がいくつか残っていました。
切り貼りにスプレー糊を多用していたそうで、職場には「スプレー糊ルーム」があると、つっぴ君は言っていました。作業机の真上に大きなダクトが口を開けていて、すごい勢いで空気を吸っているんだそうでした。最近よく見る喫煙ルームみたいな感じだったのかもしれません。ある時は外の排気口から鳥だかネズミだかが侵入して、スプレー糊ルームのすぐ上のダクトでお亡くなりになっていて、たいそう迷惑を被ったとも話してくれました。


職場にMacを導入する仕事を、つっぴ君は任されたそうでした。大仕事だったのではないかと思うのですが、まだ若かったつっぴ君はみなさんに助けられながら、なんとかお役目を果たしたようでした。


Mac導入については、特に大変だったとも苦労したとも言わなかったつっぴ君でしたが、ずいぶん後になって「まいったのぅ〜」と頭を抱えていたことがありました。どうしたのか尋ねるとMacのOSがヴァージョンアップするというのです。めでたいことでは?と聞く私につっぴ君は重ねて説明をしてくれました。「新しいOSの安定性とか信頼性にまだ疑問があるの。だけど今後発売されるMacはOSX搭載で、もうOS9は使えないんや。もしOSに不具合とか、OSX用のソフトに不具合があったら大変やろ?それにバックアップもとっておかないといかんやろ?」静聴する私につっぴ君は続けて言いました。「だからね、9搭載のMacのストックをしておかなきゃいけないんや・・・」それは本体を?と聞く私に、そう本体を、とつっぴ君は答えました。ようやくなかなか大事だとわかった私は、Macは買えそうなのか聞きました。すると「ないんや・・・」つっぴ君はがっくり肩を落として言いました。
この時つっぴ君はMacを確保するために量販店を駆け回っていたらしく、時々早くに帰宅していました。早く帰ってきたわりに顔色が冴えないわけは、こういうことだったのでした。


その後、Macは無事台数を確保でき、つっぴ君も一安心していました。この時の経験からでしょう、自宅のMacも「ハードディスク分けるで」と9とXに分けていました。ただ私起動するたびに「9にして」とか「Xにして」とMacの前に連れてこられ、「ポスペが変になった」といわれのないクレームをつけられ、家ではつっぴ君の肩の荷は降りないままでした。


会社のお使いに神田界隈をうろうろしていたつっぴ君は、よく私の聞いたことのないお店の名前を口にしました。私は家電ならビックカメラとか、秋葉なら石丸電機とかラオックスくらいしか知らないのですが、つっぴ君がMacを確保したお店は「竹」だか何かがつく聞いたこともない名前でした。文房具を買いに行ったという話でも、伊東屋とかではなく「なんとか1」だか「1なんとか」というお店に行ったりしていました。合羽橋の食器屋さんの名前や築地の魚屋さんの名前を知らないように、プロユースのお店というのは一般人にはなじみのないものなのかもしれません。時々早く帰ってきては、今日はどこに行った、ここに行ったと言うつっぴ君だって、きっと最初の頃は探検気分だったのではないかなぁと思います。



切り貼りするつっぴ君です。先輩の隣で、心なしかしおらしく見えます。