つっぴ君と 信じられない妻の食生活

つっぴ君は、甘いものも好きでした。
とは言っても、チョコとうまいぼうなら、うまいぼう、おはぎとベビースターなら、ベビースターでした。ですから全てにおいて甘さが第一義である私の好みは理解しがたい部分もあるようでした。


最もつっぴ君が驚いたのは、私が練乳が大好きだということでした。つっぴ君にとって練乳は、イチゴにかかっていたり、かき氷にミルキーな味わいをそえる脇役でした。私が練乳を主役級に遇する姿に、つっぴ君は驚いて言葉もでない様子でした。「なんで練乳を食べるの!?」と聞くつっぴ君に「おいしいから」と答えると、つっぴ君は驚きを通り越して怒り始めました。「死ぬで!!」それがつっぴ君の言い分でした。
さすがの私も致死量まで練乳を食べるつもりはありませんでした。でも真剣に「死ぬで!!」とお説教をするつっぴ君の前では練乳は控えめするようになりました。しかし、つっぴ君はさらに衝撃的なシーンを目撃することになったのです。


二人で実家に遊びに行った時のことでした。帰り際に玄関で、私の父が「はい。お土産」と私に手渡したものを見て、つっぴ君はまたも絶句してしまいました。それは3〜4本のチューブ入りの練乳だったのです。父の前では黙っていたつっぴ君でしたが、通りに出たとたんに「かしなさい」と私の手から練乳を全て取り上げました。「こんなものくれるなんて、お義父さんはどういうつもりなの!お義父さんは君が練乳食べるの知ってるの!?」もちろん大好物だと知っているからくれたのです。でも、つっぴ君は「こんなもの食べてたら死ぬ!」と、お土産の練乳を没収したのでした。


私が甘いものが好きで際限がないことを、つっぴ君はよく知っていました。結婚して間もないころのことでした。「いってきます」と家を出たつっぴ君が、数秒で再びドアを開け、玄関先に私を呼びつけました。手に紙袋を抱えて、つっぴ君は言いました。「いいですか?今、表にこの紙袋がかかっていました」「おとうさんだ!ホワイトデーのお返しだよ」私がそう答えて紙袋の手を伸ばすと、つっぴ君は紙袋を私の手から遠ざけて、また言いました。「表にかかっていたんです。いいですか?誰からの物かわかるまで、絶対に食べてはいけません。おにいさんが帰ってくるまで、絶対に食べてはいけません」私は絶対に父の置いていった物だと主張しましたが、つっぴ君は首を振り、私が「絶対に食べません」と言うまで紙袋を渡してはくれませんでした。そして、ドアが閉まる瞬間まで私の顔を見ていました。


つっぴ君は、甘ければ道に落ちていた物でも私は食べると思っていたようでした。「毒入り危険」と書いてあっても私は食べると思っていたようでした。妻が玄関に下がっていた毒入りお菓子を食べて死ぬことを「あり得る」と判断したつっぴ君は、7匹の子やぎの母やぎのように注意に注意を重ねて出勤していきました。
つっぴ君が心配した通り、お昼前には私は包みを開けて中のチョコレートを食べましたが、現在に至るまで元気抜群です。